The Artist as Engineer

月夜に映えるひと筋の風のような

鉛筆が好きだ。
鉱物的であるが黒すぎず鈍く光るのがいい。2Bあたりが気分だろうか。
筆圧が高い方なので毛筆は逆に苦手であるが、筆達者には憧憬を持っている。

描き始めの芯先はあえて研がない、前回何かを描いた時のまま。
むしろやや丸まっていた方がいい。その方が気負わずに済む。
紙の上で立てたり寝かしたり、撫でるようにも刻むようにも使い、その時に欲しい線を探りつつ引きながら
徐々に芯先の形自体がそれに適した形になる様に持ち直し仕立てていく。
感覚的には金属を目の細かい紙やすりで研いでいるのと一緒だ。

気ままに引き回した線でも不思議とリアルな質感がにじみ出たりして
良い感じの線が引けた時は指先に返ってくる感触も快い。
紙へのアタリに自分好みのタッチが増え始めスケッチにノリが出てくると指先のその感触をなるべくキープしたまま
と願うが気まぐれにすぐどこかにいってしまう。

消しゴムで消すより塗りつぶす方が多い。
多分その刹那にも無意識に芯の形を整えつつリズムや何かのきっかけを探っているのだろう。
鉛筆はその時々の意識がよりデリケートに筆跡にあらわれ易い筆記具だと思う。
(記憶イメージの影として)濃淡をたやすく使い分けられるのがまたいい。
それらの感触をストイックに形に置き直し始める。
素材に次元を移しかえると一転して表面上は随分と素っ気無くなってしまうが、
しかしこれは自分としてはあえてそう装い隠しているつもりだ。

(ちょっと変な言い方だが)
例えば紙の上で存分に引いた線が次第にフォーカスを結び始め、そのイメージが指先にこびりついてきた頃を見計らってそれを今度は別の鉛筆に装填注入(あるいは還元)し直してやるような感覚がある。
ここでの鉛筆とは宙(3次元に時間軸を加えた4次元)に自分なりの線を引く道具としての自動装置作品である。
スケッチブックの鉛筆の線を拾い集めて芯のない鉛筆(装置)に通して
もう一度スペースにドローイングする(させる?)、という試みを続けてきている。

ただ時折、本人よりも筆達者で饒舌に振舞ってくれることがある。
飽きもせず永く続けている大きな理由のひとつである。

鉛筆には一本の線に内在するボリュームがある。
さらに集積させると当然の如くリズムを伴った時間が宿っていく。
それらの線を糸にも見立て、切っ先の丸まった変わった形の針でまだ見ぬ光と影を繕っていく。

スケッチブックのページをめくる。
その真ん中から描き始めることはあまりない。

この頃は月夜に映えるひと筋の風のような線を探っている。

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